コラム「猫の手も借りたい」№251 アライグマの飼育

古新聞を片付けていて、ふと目に留まった記事が『アライグマの「野生の顔」 ~鋭いキバでかまれて~』というもの。
アニメの中に出て来た「アライグマ」を、そのアニメのように飼ってしまった人の話が掲載されていた。

89年にペットショップで「ネコみたいですよ」と、生後2ヶ月で言われるままに購入、その後8年10ヶ月飼育したものの、生後6ヶ月で狂暴化したアライグマが手に負えず、ケージ飼育をせざるを得なかった、と書いてあり、驚いた。
はあ、気の毒に。アライグマも気の毒だったけど、ケージに入れて9年近くの年月をその情の通わぬ個体と向き合って来た飼い主さんも気の毒だったに違いない。

記事を読んでいくと、最初は小さな子供だったアライグマは、あっという間に咬み始め、キバを切り去勢手術をして、ケージに入れたという。

後で考えると、アニメのアライグマだって主人公は手に負えなくなり、森に返すという内容だったのに、その部分は頭になかった、と語られていた。

ケージの中にいても世話は怖くて、毎日気持ちが沈んだ、とあり、それでもオヤツでごまかしたりしつつ、週に1回のシャンプーを続けた、とのこと。

最後の1年は、アライグマが体調を崩したので温和になり、ケージから出して生活が出来たという。
亡くなった時、なきがらに心の底から謝った、と書いてあり、取り返しのつかない、後戻りも出来ない飼育の難しさ、安易に手を出したことを詫びた、と結ばれていた。

このアライグマ、生後2ヶ月で家族に迎えられた、ということだが、いくつかのペット先進国では、現在はイヌやネコは生後3ヶ月を過ぎないと販売出来ない、という法律がすでに作られている。

なぜか。
生後3ヶ月までは、母親や一緒に生まれたきょうだいと過ごすことで、言ってみたらば社会性を身に着けられる、というのである。
一番大きいのは「咬む」ことへの学習が出来ることではないだろうか。

きょうだいで遊ぶ時、当然咬んだり咬まれたり、その時にどの程度咬んだら相手が痛がるか、咬まれたら痛いのかを学習するわけである。
母親も歯がはえた子ネコの授乳時に咬まれれば、適度な強さで子ネコを咬んで教えるのではないか。

時に、乳飲み子で保護されたという子ネコ、ミルクから育て手塩にかけた子が咬む。
飼い主さんのショックは大きかろうと思う。こんなにしてるのに、なんで咬むの!?
残念ながら親もきょうだいもいない中で育つ子ネコは加減がわからず、強く咬んでもそれがわからない。

放置すれば命に関わる状態から救い出し、やっとの思いで大きくした飼い主さん、どうしてよいかきっとわからず、悩まれるのではなかろうか。
このアライグマも2ヶ月の個体であり、ネコと同じかどうかはわからないが、恐らくこの、母親やきょうだいと早く離されたことは、少なからず影響しているように私は思う。
もちろん、愛玩動物ではない動物をペットにすることは、この方が書かれているように無茶な行為であることは否めない。

さて、この「咬む」ということ。
私たちは相談を受けると、悩んでいらっしゃる飼い主さん(保護主さん)に、咬まれたらなるべく反応せずに、子ネコを静かに床におろし、しばらく無視してください、とアドバイスする。

子ネコは無視されることに気がつけば、それがイヤで「咬む」ことはどうやら自分に不利益だと学び、だんだんと咬まなくなってくる。
ケージをお使いならケージに入れ、無視して、とお話しする。

早い子は、数回で気を付けるようになってくる。

子ネコを小さいうちから手塩にかけられた方、子ネコは決して反抗したり、嫌いだったりで咬んでいるわけではなく、シツケをしてくれる母親も一緒に学ぶきょうだいもいないからなんです。
どうぞ、それを理解され、咬むといいことはないんだ、と教えてあげてください。

2022年8月 くどいけいこ