コラム「猫の手も借りたい」№245 車庫のシャッター

半年ぶりに山陰の実家に帰省した。
老母とガラス越しではあるが、面会できることになったので、慌てて飛んで帰った。
たった10分のために飛行機を取り、タクシーを走らせる。
もう何回会えるかわからない母と、機会があれば一目でも会いたいと思う。
本当にコロナが恨めしい。

さて、実家は山陰の田舎町。実家から歩いて5分もかからない場所に日本海があるような、海沿いの街。

春にはひばりや燕が飛び、また「ウグイス」の鳴きあう姿も。繁殖シーズンには必ず聞かれる。
私が住んでいた頃には「カッコー」も鳴いていたが、さすがにこのところは確認できない。
まあ、40年前の話だから当たり前か。

実家の玄関前の庭は草も生えておらず手入れされている感じだが、家の脇から裏に回ると草が生え放題。
おまけに様子を見に行こうとしても、蜂やアブが飛び回り、危険極まりない。
母屋と離れ、その周囲もうちの空き地、単身で帰っているので、万が一蜂に刺されでもして、アナフラキシーショックでも起こした日にゃ、自分で携帯電話で救急車でも呼ばないと大変なことになりかねない。
雪国の「雪下ろし」は単身では行わず複数で、という警告は、雪国ではないがやはり当てはまる。

まあ、都会でも単身者は、室内では常に同じ危険にさらされているわけか。

さて、玄関前の庭はご近所さんが、せっせと草取りをしてくださる。
この庭が草に覆われていると、防犯上よろしくないのでとっても助かっている。あとでお訪ねしお礼を言わなくちゃ。

近所のスーパーに食料の調達に行くのに、車庫のシャッターを開けて自転車を出そうとすると、お向かいのアパート1階のバルコニーの下にハチワレちゃんがいるのが見えた。
「やあ」と声掛けしたものの、バックを置いてきたことに気づき取りに戻ろうと思ったが、待てよ、その間にハチワレちゃん、車庫に入っちゃわないかな、という不安が頭をよぎった。

こんなに人の少ない場所でネコが車庫に閉じ込められたら、鳴いても気付かれず命を落としかねない。
ということで、車庫に出入りする時は、その度に一々シャッターを閉めることにした、やれやれ。
ましてや、一泊の予定だったので、車庫の鍵を閉めて帰京してしまうと、どうにもならないことになる。
今回の実家行き、車庫を開ける度にハチワレちゃんの存在を確認しながら出入りした。

このハチワレちゃん、お向かいのアパートの誰かからフードをもらっているらしい。
若くてきれいなネコである。

海岸のすぐ傍なので、ペットを捨てる人が後を絶たず、一時期は捨てられた犬が群れを成したり、お隣さんが複数のネコを抱えたりしたこともあり、無責任な人のために動物も無関係の人も迷惑した。

何年前だったか、お隣の庭に子ネコが捨てられ、法事で帰った私はその子ネコを拾う羽目になり、一晩離れで面倒をみた上に、飛行機で東京に連れて帰るという経験をした。
ちびの可愛い真っ白なオスで、台所のスケールで体重を計ったら500g、生後1ヶ月半のキトンブルーの、まあ可愛い子ネコであった。

東京ですぐにかかりつけの病院で健康診断、問題なくあっという間に里親さんが見つかったが、病院の診察台でここに至る経緯を説明し、なんと訛って鳴くんです、と言ったら驚かれた。冗談です。

当初の目的、老母との面会はちゃんと果たせ、お互いを確認しあうことが出来ました。

2022年5月 くどいけいこ