コラム「猫の手も借りたい」№222 ムギちゃんのエサやり
シマ三毛のムギちゃんは、新人の黒いオスが昨年近所に来てから、うちの庭に来なくなった。
黒いオスは手術をしていなかったから、女の子のムギちゃんを執拗に追いかけていたようで、ムギちゃんは来たくても来れなかった、というのが真相だ。
来なくなったら居場所が分らず、私は心配ばかりしていた。
ある日の昼間の散歩中、ふと気がつくと後ろにムギちゃんが。
もう、びっくり。けっこう私宅から離れた場所だし、ムギちゃんは私をどうやって見つけたのか、謎だ。
しかし、よかった。
最初は、そこまでフードを持って行って、それで釣ってうちの庭まで誘導することを試みた。
もちろん、空腹の彼女は、フードに釣られて途中までは着いてくるが、必ずどこかで立ち止まってしまう。
それをしばらく続けてみたが「これは無理だ」と判断し、フードのデリバリーを決めた。そろそろ10ヶ月にもなる。
私は「置きエサ」はしないから、お皿に入れたフードを与えつつ、彼女が食べ終わるまで15~20分近く、現地に留まる。
夜の8時から遅い時は10時くらいまでの間、へんなおばさんが毎夜毎夜現れ、いったいなにをしてんだか、とその付近の方々は思われているだろう。
そうは言っても人通りは少ないし、顔写真付きの「身分証明」ができるものを首から下げているので、ほとんど見咎められることもないが、「このおばさん、なに!?」とみんな不思議そうな顔で通り過ぎられる。
ムギちゃんにはそんなエサやりをしているのであるが、数日前、通行人の女性から声を掛けられた。
「ネコちゃんがいるんですか?」という、確認のお声だった。
ムギちゃんは上手に建物の陰に隠れてフードを食べる。それに女性は気がつかれたようだ。
もちろん、はいそうなんです、と私は素性を明かし名乗った。
彼女は私のことをご存じだった。「くどいさんて、あなたでしたか…」と言われ、ご存じの任意で活動されている数人のボランティアさんのお名前を口にされた。私は、一緒に活動している方たちではなかったので、その旨をお伝えし、名刺をお渡しした。
そこから1時間近く、ひそひその「立ち話」になった。
私が、なんでここでエサやりをしているのか、それからNPO法人での活動状況などをご説明させていただくと、女性もご自分の「飼い主のいないネコ」との関わりをお話してくださった。
土手に近い場所にお宅があるため、捨てられた子たちもたくさん保護し、避妊去勢手術もしたが、今はずいぶんネコが減った印象を受ける。後進の方(私もそのひとりですかね)が、頑張ってくださっているのね、と頭を下げお礼を言われ、ねぎらいの言葉をかけてくださった。
このところ、いろいろなことに行き詰まり、おまけにコロナに封じ込められ、気持ちも塞ぎがちだったが、すーっと気持ちが晴れやかになって行くのが自分でもわかった。
本当に嬉しい限りである。こっちが御礼申し上げます。
ちっぽけな人ひとり、なにをするにも勇気がいる。
特にこの「飼い主のいないネコ」については、相変わらず理解されにくい面も多く、反感を買いながらの活動であることも否めない。時々、いや、しょっちゅうか、「やめたいな」と思うことがある。
そんな中でのエサやり、「ネコのためだけではなく、みんなのためにもやってる」といくら自負しても、それが素直に通じるものでもない。
でも、こんな人と出会うと、ひとりじゃないんだ、と「ぽっ」と心が暖かくなる。
このコラム、222話まで来ました。
22日にアップしました。
読んでいただき、感謝しております。