コラム「猫の手も借りたい」№75 十(とお)の瞳 上
今から8年前の春、子猫が近隣に溢れたことはこれまでに何回かお読みいただいた。
その時に生まれた子たちの中に5匹の兄弟姉妹がいた。
母猫は年老いていて、この子たちを生んですぐ、夏を待たずに姿が見えなくなった。
ノラ猫は元々人には馴れない子も多いが、この母は飛び抜けて馴れない猫で、激しい威嚇を繰り返すので「イカク」ちゃんと呼んでいた程である。
彼女のは「シャー」とか「ハーッ」とかいう程度のものではなく、なんと言ったら良いか、どう例えたら良いかわからないが、「ブシャッ」っというか「バッ」というか、とにかく真似できない音である。ホントもう、びっくりした、威嚇されると。
私、あなたにこれだけ「ごはん」あげてんだけど、それでも威嚇するわけ?と話しかけていたが、本当にこの母猫は凄かった。
5匹の子たちは、3匹がキジシロ、1匹がキジトラ、もう1匹がシャムMIXであった。
生後2ヶ月のころ、1匹のキジシロは、夜餌ヤリに出向いた時はすでに虫の息だった。ハウスの中で痙攣が始まり呼吸が早かった。脱水も見られたのですぐに応急手当の皮下輸液をした。たまたまうちで腎不全の治療のため輸液の予備があったからだ。
皮下輸液をしたもののすでに受け付けない状態、残念ながら私の手の中で子猫はあっという間に天国へと旅立って行った。呼吸がなくなり、しばらくして心音が途絶えるのを初めて経験した。
子猫は、私の他に近隣のアパートのおじさんが面倒を見てくれていたので、翌日確認をしたらば「前の日までは元気だったのになあ・・・ 昨日の夜は確かに食欲がなかったね」とのこと。
「十(とお)の瞳」は「八つの瞳」になってしまった。
ほぼ同時期に、5匹のうちの2匹を保護し里親さんを探した。キジシロ1匹(♂)とシャムMIX(♀)である。
保護した2匹、キジシロのお兄ちゃんは「タビ(白い足袋を履いているみたいだった)」、妹は「メイ」と仮の名が付いた。
2匹ともいつも「里親探し」に協力して下さるお宅にお預けしたが、「可愛い!」と家族で慈しんで「馴らし」をして下さった。タビは、非常にフレンドリーで扱いやすい子猫であったが、さて、問題は「メイ」の方。
この子が、母親のDNAを色濃く引き継いでいた。シャムMIXとは言え、見た目はシャム猫、女の子だったので小柄でラブリー、非常に可愛らしかったが、これが馴れない。プチ「イカク」ちゃんである。
タビといつも一緒、タビお兄ちゃんがいるところにメイあり、でメイは常にお兄ちゃんにくっつき行動を共にしていた。タビはそのうち素敵な里親先が決まり貰われていった。
「バジル」と名前も変わり今も元気で暮らしている。
メイは1匹になったので、頼る親兄弟もないからこれは馴れるぞ、とみなで期待したらば予想に反し馴れなかった。
たくさんの子猫を馴らして下さり実績があるお宅なので、それはそれは一生懸命にやって下さったが、メイは結局、里親に出せないままそのお宅の猫になった。
その後、幸いにも一番可愛がって下さる娘さんにはなんとか懐き、その娘さんの膝ではくつろげるまでにはなったが他の人はNG、やれやれ、彼女の中で「イカク」ちゃんは紛れもなく生きているんだな。
残された2匹のその後は後編へ。
続きます。
2014年2月 くどいけいこ
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