コラム「猫の手も借りたい」№52 空飛ぶ子猫 上

11月(2012年)の中旬、家族の法事で実家に帰った。
私の実家は「山陰地方」の片田舎で徒歩5分で日本海、民家がまばらな、のどかな場所である。

法事の前日、お隣りにたまたま行ったところ、子猫の鳴き声がする。お隣りは80歳を越えた老婦人とその娘さん(私にとっては「お隣りのおねえちゃん」)の2人暮らし。
おねえちゃんに訊ねた。「子猫の鳴き声がするんだけど」。おねえちゃんは「そうなのよ、うちの庭に捨てられたらしい。母親がさっき抱っこしたらしく、小さな子猫で馴れてたみたい。飼えないんだから触らないように言ったんだけど・・・」とのこと。

ったく、ここまで来てまたこの話しかい。ここから心穏やかには居られるはずがない。か~!

夕方から雨になった。雨の音に混じって、切れ切れに子猫の鳴き声が聴こえる。あー、耳を塞いでしまいたい。声の感じは相当小さな子猫で、母猫を定期的に呼んでいる。自分はここにいるよママ、迎えに来て!と教えているのだ。あー、切ない。
深夜、雨は止まないが子猫の鳴き声は止んだ。ひょっとしたら思い余ったお隣りが保護したのかも、と淡い期待を抱いた。うちの実家とて78歳の老母の独居、とてもじゃないが自分の世話だけで精一杯の母が、いくら「飼いたい」と言っても首は縦には振れない。

一夜が明けた。さあ、法事当日。10時にはご住職が来られ読経が始まる。私も起きてすぐ雨の中を墓所まで行き、お花の準備など最後のチェック。

家に戻り朝食の用意を手伝っていると、また鳴き出した。お隣りが保護したのではなく、昨夜は鳴き疲れてしまったらしい。
家族で朝食。また激しく鳴いている。
朝食を終えると雨の中傘もささずに、迷わずお隣りの庭へ走った。軽乗用車の横に置いてあった「木箱」が棚のようになっており、子猫はその中段にいた。木箱全体に大きなビニールカバーが掛けられていたため、雨風には当たらずに済んだようだ。

すぐに実家に連れて帰り「お母さん、段ボール」と言ったとたん、家族から「どうすんだ、猫!」と非難集中。家族にはいつまでたっても私が「猫を拾って来る女の子(っておこがまし過ぎですか~)」としか映らないんだな。
時刻は9時を回っている。時間がないから、とりあえず母が出してくれた間に合わせの段ボールに入れ、離れに保護。

法事が終わり見に行くと、お腹を空かせた子猫は私の足にまとわりついて、爪をかけてズボンをどんどん登って来る。腰辺りでいったん止まり私の顔を見ながら「にゃー」と必死の訴え。そのまま肩まで這いあがって来た。はいはい解りました、もうちょっと待ってね。

自転車で10分ほどのスーパーへ。フードやペットシート、トイレ砂を購入、離れへとって返した。食べやすいように子猫専用のウエットフードをひと肌に温め与えると食欲旺盛、ひと安心。

離れに子猫を残して出て行こうとすると懸命に後追いする。こんなに馴れた可愛い子を捨てる人の気が知れない。
全身真っ白のオス、尻尾も長くて曲がりもなく、美しい。まだキトンブルーと呼ばれる「ブルーグレイ」の目をしているから、生後2ヵ月には達していないなぁ・・・、それにしても愛らしいチビスケだ。キッチンスケールで測ってみたらば体重が500gしかない。こりゃあ生後5週くらいか、思ったより小さい。こんなチビ、飛行機は乗っけてくれんのかなあ・・・とぼんやりと考えた。お隣りと実家がダメなら東京に連れて行くしかないからである。飛行機で一緒に帰ろうと決めた。


続きます。

 

2012年12月 くどいけいこ