コラム「猫の手も借りたい」№33 続・事情聴取

餌やりをしている時、いきなりだった。22時半を回っていたと思う。

明らかに私は叱られていた。 

「てめー、夜な夜な猫に毎晩餌やってんじゃねえぞー、てめーが餌やらなきゃ、猫はどっかに行くんだよー、気持ち悪りーなー」

顔見知り程度の若い男性。夜、犬を連れて散歩されている人で、ここ1~2年、散歩コースが私の餌やり場所と重なっていた。言葉を交わしたことはない。犬のリードがワイヤー式の、手元から繰り出されるタイプなので、犬が、与えたフードを食べている猫を後ろから跳ね除ける形で容器のフードを食べてしまったりしたことがあり、時々舌打ちのような音が聴こえ、良い印象は持たれていないな、とは感じていた。今夜、溜まっていた感情が爆発したのであろうが、怒鳴ることはなく、しかし、静かではあるが激しい口調であった。 

私「猫はここで餌をやらないと確かに近隣に散らばるけど、そもそも猫の数が多いから、散らばった先にもノラ猫はいて、その猫が今度はこちらに流れてくることになり、結局は猫の入れ替わりがあるだけで数は減らないと思うよ」 

男性「てめーが世話してるから、みんな迷惑してんだよ。『餌やるな』って貼り紙してやろうか、気持ち悪りーなー」、また「気持ち悪い」である。心底「気持ち悪い」と思っていることが解る。

 結局男性の気迫に押された私は、男性の質問に応えるQ&A方式の返答になってしまった。横を通る数人は足早に立ち去って行かれる。

大声ではないが勢いがある「もの言い」なので、恐怖感があった。 

私「貼り紙しても問題は解決しないと思うよ。餌をやらないと猫はゴミを漁ったりして、かえって別の問題が発生すると思うけど。                  私は地域猫活動をしているボランティアで、行政とも一緒に活動してるし、このご近所は私が餌やりしてることをご存じの人も多いよ。      そもそも、初めて話す私に対して『てめー』って言う言葉遣いは失礼だと思うけど」 

男性「よし、出るとこに出ようじゃないか。だいたい何の権限があって、てめーがここの猫に餌やってんだよー」 

私「そもそも、5~6年前は猫は20匹以上いたんだよ。近所の何人かが餌をやって増やしちゃったみたいで、私が自費で手術してこの子たちの世話をしているの。今は7~9匹ほどに減っていて、もう繁殖しないから一代限りの命を全うさせてやろうと思ってるのよ」 

ここで彼は、いきなりトーンダウンした。しばらく沈黙があり「そうですか・・・、続けて下さい」と言った。

へ?? 続けて・・・下さい・・・? 「解って下さったの? ありがとう。良かった、これからは道で会ったら、お互い声を掛けながら行きましょうね」と言ったこの辺りで、大通りからお巡りさんが2人走って来られるのが目に入った。心配して下さった通り掛かりのどなたかが110番をして下さったらしい。パトカーを呼ばれてしまったわけである。 

ところが、このお巡りさん、なんとあの「グレー」の子猫を保護しに行った交番(№24,25「事情聴取 上・下」)で何度かお会いしたことのある方だった。お巡りさんに「あれ、あなた、あの時の」と言われ、「あー、あの時のお巡りさんでしたか、子猫は里親さん宅で元気にしてますよ」と報告。こうなったら話は早い。グレー子猫保護の時に、NPOの名刺もお渡ししてあり、私の素性は全てご存じだからである。

この男性と「猫の餌やり」で誤解があり、事情をお話ししたらばご理解いただいた旨をお伝えし、あっという間に一件落着したわけである。 

この経験で私は「猫の餌やり」という行為が、軽んじられていることを再認識せざるを得なかった。男性は頭から「餌やり」を疑うことなくいわば「非常識」な行為と捉え、理由も訊ねずいきなりストレートに「抗議」された。「気持ち悪い」と何度か言われたのが私の心に刺さった棘となったのは否めない。

今までも、そして現在も「可愛いから」「可哀想だから」と給餌をし、その結果猫を増やしてしまった餌やりさんがまだまだ多い。「餌やり」=「非常識」や「迷惑」と認識される状況を払拭するには、私たちボランティアも広報や啓発活動を行うなど、地道な努力を続けて行くことが肝要である。 

それはさておき、解決してよかった。

 

2011年/12月某日 くどいけいこ