コラム「猫の手も借りたい」№30 予期せぬ出来事 下

入院から4日後、面会に行った。少しずつではあるが回復して来ているという。ドクターの話しだと、やっと少し眠れるようになって来た様子だと聴いて「え?」と思った。彼の場合は傷が大きく壊疽(えそ)が進行したため深く大きな傷になっており、壊疽部分を取り除き縫合せずにそのまま皮膚が再生するのを待つとのこと。本当に辛かったらしく、入院後も酷い痛みで眠ることも出来ずにいたが、今日辺り(4日目)少しまどろむようになったので、痛みが和らいできたのでは、との診立て。可哀想に、そんなに辛い思いをしていたのか・・・。保護が数日遅れたら、彼はすでにここにいなかったであろう。

面会して驚いた。大きな真っ赤な傷が口を開けている。看護師さんの話しでは「最初は、傷は2つに分かれていたが、すぐに境目が切れて繋がり1つの大きな傷になった。私が看護師になってから見た、一番大きな傷だ」とのこと。まだまだ風邪も酷く、顔も目ヤニ、鼻水でくしゃくしゃである。何とか回復して元気になって欲しいと願った。

さて、彼が治った後どうするかも考えた。かなり成長するまで屋外にいただろうから、もし元気になったら「地域猫」として公園に戻そうかと当初は考えた。しかし、すぐに考え直した。というのも彼はあまりにも人に馴れている。毎日世話をして貰う看護師さんにも、診察して下さるドクターにも非常に懐き、全く抵抗することなく、全て身を任せているという。入院中のケージを開けると、胸に飛びついてくるそうである。これほど人懐こいと「これは公園には戻せないなー」との、みなさんからの希望でもあった。また同じ場所に戻しても、他の猫に咬まれてしまうであろうし。よし、じゃあ里親さん探しをしよう、と張り切って里親さん募集を始めたところ、なんと3組もの応募があったので、ほっと胸を撫で下ろした。

退院が決まったら去勢手術とワクチンをし、すぐに里親さん候補とお見合いをとの段取りを組んだ。念のため、エイズ・白血病・猫伝染性腹膜炎のウイルスチェックをすることにし、血液センターからの結果を待っていた。あくまで「念のため」のつもりだった。

そろそろ検査結果が出るな、と思っていたら病院から連絡があり、なんと「エイズ」の陽性反応が出たというのだ。

あれだけ酷く、何度もそれも何匹かに咬まれたであろう彼。考えてみたら「エイズ」という3文字は当然かも知れないが、人にこれほど馴れた猫にとっては、非常に残念な結果で正直「がっかり」した。「エイズ」キャリアの猫を譲渡することは、相当慎重にならざるを得ない。そもそも「陰性の先住猫」がいるお宅は当然対象外となる。

彼は、みなさんの治療が実り、傷も塞がり風邪も治って3週間ほどで目出度く退院の運びとなり、去勢手術もワクチンも段取り通り終了した。

「エイズ」と判った後も、退院後どうするかを考え散々思い悩んだ結果、里親さんに応募して下さった方々には事情をお話しお断りをした。そして、ふと思い立ち1年前に飼い猫を病気で失くした友人に事情を話したところ、「うちの子にするよ」と快く引き受けてくれた。本当にありがたかった。

退院の日、その足で彼を友人宅に送り届けた。

友人宅は、先住猫が使っていた生活用品、寝床やトイレなどはすべてそのままになっており、1年前に飼い猫を失くした友人の想いが感じられ切なかった。

彼は、すぐさま先住猫の使っていた「ハウス」に入り込んだ。抱っこしてハウスから出そうとした私に友人は、「そのままにしておいてやったら」とほほ笑んだ。

居間でくつろいでいた友人と私の元に、彼がやって来たのはものの15分後。それからはカウチでうたた寝をした友人に寄り添うように一緒に眠ってしまった彼をそのままにして、私はそっと帰って来た。

その彼も今年(2011年)で4歳、現在エイズは発症しておらず、元気に友人宅をところ狭しと走り回っている。

 

2011年/10月某日 くどいけいこ