コラム「猫の手も借りたい」№12   ブチ 上

私がノラ猫の給餌を始めたのは、5~6年前と記憶している。一番最初に避妊・去勢手術をしたのは、白黒の「ハチワレ」模様のメスで「オミー」という。この子は今でも健在であり、そのオミーの兄弟にオスの「ブチ」がいた。

この2匹は例のアパートのおじさん(コラム№2「外猫の食事タイム」に登場)が可愛がっていた猫で、その頃はこの2匹の母猫も健在で、3匹ともおじさんのアパート前でご飯を貰っており、まずこの子たちからと避妊・去勢手術をし始めたのだった。

オミーの兄弟の「ブチ」は可愛いキジシロのオス、顔の半分がキジトラ柄、半分が白の斑模様だったので「ブチ」と呼ぶようになった。弱っちいヤツで近隣のオス猫の中では喧嘩に負ける。他のオスに遠慮しながらも食事時には必ずご飯をねだりに来る子で、それはそれは可愛らしい声で鳴く。私にも段々馴れ、ご飯中であれば後ろから背中を撫でられるようになっていた。

ある寒い冬、餌場にブチが現れなくなった。3週間ほど経ち諦めかけた時、聴き覚えのあるブチの声がした。とびっきり寒くて風の強い日だった。

3週間ぶりに見たブチは変なかっこうだった。右前足が関節が曲げられないらしく前方向にぴーんと伸び、与えた鶏肉を食べるのに、手間取っていた。突っ張った右前足がじゃまで口が鶏肉に届かず、食べられないのだ。驚いて観察していたが、自分の足がじゃまで前方向には歩けず、のろのろと後退りで「エビ」のように歩いており、異様な光景であった。

ブチは体が汚れ痩せて弱っていたが、それでも近寄ると抵抗した。私も何とかしてやりたいが、さて、どうしたものやら途方にくれた。何とか病院に連れて行きたいが、自由に触らせてくれる飼い猫とは違い、ノラ猫はこういった場合非常に対応が難しい。考えた末に「保護(捕獲)器」を使ってみることにした。

保護器をセットし餌を仕掛けたが、さっき与えた鶏肉も食べられず残っており、こりゃあ無理だ、と半ば諦めかけたがブチはよほど空腹だったとみえ鶏肉の匂いに誘われ、やはりエビのように後ろ向きで保護器に入ったので、走り寄って出口を塞いだ。もちろん鶏肉は食べられない。深夜だったがそのままタクシーで病院に連れて行った。

真夜中にもかかわらずドクターは気持ちよく診察して下さった。明るいところで改めて見てみると、保護器の中で対角線上に突っ張って伸びた前足にびっくりであった。何とか保護器からブチを出し、レントゲンを撮った結果、疑われた骨折などは無かったが、当然胃の中は空っぽで脱水も酷かった。3週間ほとんど飲まず食わずだったらしい。診察の結果、これは交通事故などではなく、恐らく喧嘩の時に咬まれた右前足(関節を含む)の大きなケガがそのまま固まってしまったのではないか、とのこと。夏場であれば化膿し腐敗するところだが、真冬だったためそれを免れたらしい。長年、動物医療に携わっているが経験がない状況だ、とドクター。ブチはこのまま入院することになった。

利かない右前足に点滴をされ、ブチはケージの中で左側を下にして横たわっている。ケージの前には「危険 咬みます」の貼り紙。人に馴れていないため、検査や治療をする際には点滴に鎮静剤を入れ大人しくなってからでないと出来ない、というやっかいな状況であった。ご飯も寝たままで、顔の下にお皿を差し込んで貰って食べていた。このまましばらく様子をみて、突っ張った右前足を揉みほぐしたりのリハビリをしてみるとの方針になった。続きます。 

 2010年/11月某日 くどいけいこ