コラム「猫の手も借りたい」№13 ブチ 下
看護師さんに馴れ、問題なく触れるようになり「危険 咬みます」の貼り紙は外された。ドクターに伺うと、前1面のみしか開いていないケージに入れ接していると、大概の暴れん坊も大人しくなるという。ブチもその通りであった。 こんなブチであったが、しばらくするとドクターや
2~3週間ほど入院治療をしたが、右前足はあまり変化がないので退院することになった。退院して自宅(ってどこ!?)で養生しながら前足を揉みほぐす「リハビリ」を続けてみて、芳しくなくば固まった前足は切断した方が当猫(とうにん)には楽ではないか、とのことであったが、「切断」は大変なことだ。切ってしまったら取り返しがつかないから慎重に対応しなければならない。
さて、実際にブチをどこで養生させたものか考えあぐねた。後ろ歩きしか出来ないからトイレの段差が越えられないため、砂のトイレも使えずペットシートで用を足していたが、いつも誰かの目が届く病院ならいざ知らず、私のような同居家族がない会社勤めで終日留守の人間には、うちに連れ帰ってもシートを小まめに交換してやれないし、ご飯も体が不自由なため「ドライを置いとけばOK」というわけには行かず、対応が難しかった。
何とか受け入れ先を探した結果、知人がやっている「個人シェルター」で引き受けてくれることになり、彼の行末を案じて下さっていたドクター、看護師さんとともに、皆で胸を撫で下ろした。ブチは、突っ張った足のまま退院し、シェルターの大きなケージに収まった。なお「前足」以外の健康状態は良好で食欲旺盛、見る影もなかった風貌も奇麗になり、見違えた。
お預けしたシェルターのブチ担当さんは、それから1ヵ月間彼の面倒を見て下さり、ブチの前足を毎日マッサージして下さったが、残念ながら好転の兆しは見られなかった。ブチは、たまにしか会いに行かれない私には「シャー」と威嚇し敵意を見せたが、幸い担当さんには馴れマッサージも問題なくさせてくれた。しかし、一向に良くならないため、私はブチを連れ他の病院を受診した。もし足を切断するとなると、やはりセカンドオピニオンが欲しかったからである。
他のドクターの診立ても同様で、結局ブチは右前足を肩の下辺りから切断することになり、また元の病院に入院、手術を受けた。手術は上手く行き、1週間ほどでシェルターの担当さんの元へ帰って来た。
担当さんの話によると、それからは「砂のトイレ」が使えるようになり、世話がうんと楽になったとのこと。ブチは「失った右前足」でも一生懸命砂をかく動作をするそうである。
シェルターでのブチは大変元気で、すぐに「ケージ生活」を終了し他の猫と一緒に生活できる部屋に移って久しい。優しい性格で、同居の猫ちゃんの保護主さんたちからもすこぶる評判が良く「ブチくんが一番性格が良い」などと頭を撫でられ、オヤツを貰ったりして過ごしている。一時期はブチを「元の地域に戻す」ということも視野に入れていたが、あれほどのケガをさせられた強いオスのいる縄張りに彼を返すなんて、そんな鬼のようなことが出来るはずもなく、そのままシェルター暮らしとなった。
私は仕事でほとんど行かれないので、必要な費用の支払いの時だけ「ブチく~ん」と顔を見に行く。最初は担当さんが気を使って、部屋の段差が高い場所には「ブチ用階段」を作って下さったが、なんのことはない、そんな階段も使わずひとっ飛びで高い場所にも上がる。このシェルターで暮らしている分には、前足欠損の支障は全くない。もちろん、地域に戻ればそれはそうも行かず、家や寝床もなければご飯も奪い合い、庇ってくれるものもない上に強いオスの攻撃に晒される暮らしであり、それが解っているのか、ブチはシェルターからは出ようなどという気はさらさらないようで、全く逃げようとしない。
私は、ブチを連れ、毎年春に健康診断とワクチン接種のため手術していただいた病院を訪れ、ドクターや看護師さんに「お~、ブチ、久しぶり。毛艶が良いな~」などと言われるのを楽しみにしている。それこそ「借りる猫の手」を失くしたブチだが、このまま幸せな一生を送ってくれるよう、支援を続けて行きたい。
ブチの今があるのは、関わって下さった全ての皆様のお力添えがあったからこそ、心から感謝いたします。
2010年/12月某日 くどいけいこ
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