コラム「猫の手も借りたい」№185 耳カット

この頃、「耳カット」されている「飼い主のいないネコ」を見かける機会が多くなった。
「さくらみみ(桜耳)」などと呼ばれてもいる。カットした後の耳の形が桜の花びらに似ているからである。
「耳カット」は飼い主のいないネコ に避妊去勢手術を受けさせた「証 ~あかし~」であり、もう繁殖はしませんよ、という しるし であると同時に、その子が他の地域に行ってしまった時に、その地域の方が、もう一度手術をしないように、という目印でもあるわけである。

耳カットは「さくらみみ」だけではなく、耳の脇側をL字にカットしたもの、上の部分を真横にカットしたものなど、いろいろある。
メス/オスが判りやすいように、左右の耳で分けている病院や団体もある。
もちろん、かなり前に手術した子で、カットしていない子もいるので、耳カットしていないからといって手術をしていない、ということではないので注意が必要だ。
やはり、よく観察し繁殖する時に見られる独特の鳴き声や、異性を求めているような状況などがなければ、手術済みかもと疑うことも、不要な手術を避ける手掛かりとなるのである。

私が避妊去勢手術を始めた15年ほど前は、耳カットはどちらかというと主流ではなかったように思う。
今よりずっと、世の中がノラネコに興味を持っていなかったから、耳を見ることさえなかったのではないか。
また「虐待」と取られかねないようなこともあり、私は一人で始めた活動当初はカットしていなかった。

しかし、また別の事情でカットしないケースもある。
それは、依頼者さんが地域(近隣)と折り合いがつかず、ネコたちが繁殖しないように出来たらそれでいい、ということも稀にあるからだ。
世の中にはいろんな考えの方々がいらっしゃり、自然に逆らう「避妊去勢手術」自体、快く思われない方もある。

私たちが区民の方から受ける相談の中で、一番難しいと感じるのは、依頼者さんがご近所の方々とのコミュニケーションが取れているか、エサを与えている人みんなが判っているか、などであり、ほとんどの依頼者さんが個人で動いている場合が多く、ご近所リサーチをお願いしても「難しい、、、」とのお応えが多い。
その場合、「耳カット」をしてしまうとかえってそのことが問題視され、犯人追及をされたりするのは回避したいと言われる依頼者さんも少なくなく、その場合は「耳カット」なしで手術する場合もある。
もっとも、ご近所やエサやりさんとの接触を試みている間に繁殖が始まるようであるならば、まず「手術」ということもあるわけだ。
これはこれで、致し方ないことと思う。

過去に、飼い主のいないネコのトラブルが元で殺傷沙汰になったようなこともあり、やはり無理は禁物と肝に銘じている。
これほど家が密集し、その割にはご近所同士のコミュニケーション不足が叫ばれる昨今であるのだから。

手術をする時に思い切って情報収集をするためにチラシを作成し、協力を募ったらとアドバイスしたら、それがきっかけでご近所のコミュニティが発足した、という方もいらっしゃり、私たちもみなさんの一助になっているんだ、と気を良くしたこともあった。
ネコそれぞれである。

2019年11月 くどいけいこ