コラム「猫の手も借りたい」№117 缶切り
久しぶりに「缶切り」を使った。職場での話だ。 毎日飲む、コーヒーの粉の入った缶を開けるためである。探したが缶切りは見つからなかったので、わざわざ他部署に借りに行った。
コーヒーの粉ってけっこう消費するので、これでもか、と大缶を購入、赤いビニール製のフタを開けてみたらばなんと、缶切りで切って開けるタイプの缶、今時の「パッカン」というあのプルタブを引っ張って開けるタイプ(イージーオープンエンドというらしい)ではなかった。
なので、とってもとっても久しぶりに「缶切り」を使った。 というか、職場の後輩のF君が頑張って開けてくれようとした。 「開けてくれようとした」というのは、缶のふちに缶切りをあてフタを切ろうとしたが、これがなかなかうまくいかなかったんである。
缶切りを使うということって、お若いF君にとっちゃあ、えらい昔に使ったかな、ってな感覚で、これがうまく使えないのだ。
見かねて私が手を出し、使い方の見本を示してみた。
それこそ私の年齢の人は何十年も缶切りを使っていたから、今でも間違いなく使うことが出来る。
それほどポピュラーな道具だった。 ここで、ふと思い出すことがあった。
最初の♂猫「チャオ」のことである。
チャオは、2007年に16歳で「虹の橋」に行ってしまった猫で、いつ頃までだろう、チャオのウエットフードの入っている缶は、必ず缶切りで「キコキコ」と切って開けてやっていた。
チャオは食いしん坊で、いつも「にゃ~」と可愛い声で鳴いて、フードをねだった。
ドライよりウエットが好きだったので、彼を待たせて「キコキコ」と缶を開けていた。
私は、モモ缶や密豆などのフルーツや甘味の入った缶詰が好きで、時々食べるのに缶切りを使った。
私がモモ缶を開けると、決まって足元に飛んで来るチャオがいた。
最初は「違うよ、モモ缶!」と相手にしていなかったが、毎回毎回、何を開けてもぴゅんと飛んで来るので、そのうち彼に解らせるため、わざわざ半分ほど開けた缶詰を「ほら~」と見せ、匂いをかがせていた。
この行為は、パッカンタイプにフード缶が代わっても、飲み物を飲むために「カッチン」とプルタブを起こしても、彼は飛んで来、それは彼が亡くなるまで変わることはなかった。
次の♀猫タマは、モモ缶開けても、キャットフード缶開けても、興味は示さない(ドライ派ですし)。
恐らく、他のお宅で缶切りを使っても、今の猫たちは無反応であろうと思う。
私がフード缶を開ける足元でじっと私を見上げ、待っていたチャオ。
あの愛らしい声や、私を見つめる眼差しを思い出し、懐かしく嬉しかった。
さて、コーヒーの缶はどうなったかと言うと、けっこう長い時間をかけ、F君が開けてくれた。
本当にありがとう~。
なかなか開け切るのに手間取り、私も缶の胴を動かないように押さえたりしていて気がつかなかったが、ようやく開いて「やったー、開いた!」と思ったとたん、F君が指を切っていることに気がついた。
きゃー、ごめんよ、とあわててキズ絆創膏を差し出したのは言うまでもない。