コラム「猫の手も借りたい」№111 遅刻のわけ
その日は甥と二人で人気漫画家の展覧会を覗く約束、大通りを駅に向って歩いていた。
ふと見ると、私と平行に道路左車線のど真ん中(それも3車線の真ん中)を、黒のミニチュアダックスが全速力で走って行くのが見えた。
びっくりして振り返ったが、飼い主らしい姿はない。
車は、というと3車線とも犬から少し間隔を開けて走ってくれている。それはそうだ、前を走る犬の動きによっては轢いてしまうし、犬が他の車と接触するのもみなさん、見たくないに違いない。
慌てて走って追いかけ、途中の交番のおまわりさんも巻き込んだ。
走りながら目に飛び込んで来る光景は、通行人が犬を見つけて、驚く姿。
たった今、犬の散歩に出て来たご夫婦らしき方たちに、犬を追いかけているので手伝って、と話すと「えっ!」とびっくり。
私はそのまま犬を追いかけていると、すぐ横の車道を走る若い女性が私に追いついて来た。
彼女、「犬、見ましたか?」と。飼い主さんか?
私は「道路のど真ん中を走って行ったよ!車に轢かれるから、早く追いついて!」と言うと、彼女は走って行き、私もそのまま追いかけた。
後ろを振り返ると、ご夫婦の奥さんの方は走って、おまわりさんは自転車で来てくれた。
この辺りで私、駅を通り越した。
女性が止まったので、私とおまわりさんが追いつき、そこで話が出来たので事情が判明した。
若い女性は、ペットショップの店員さん。
搬送途中のダックスが逃げて、追いかけて来たと言う。
もうひとり、店員さんが自転車で後を追っている、とのこと。
女性店員さん、「犬が速くて」と息を切らしている。
おまわりさん「犬は咬むの?」
店員さん「咬まないけど、とても臆病で、知らない人が急に触ると・・・」とのこと。
ここで完全に、店員さんも私も犬を見失った。さて、どうしたもんか。 甥の顔も頭を過ぎったが、ごめんよ、甥っ子。
そこで助け船が現れた。
犬が走って行ったと思われる方から来た、これもご夫婦と思われるお二人が、「犬ですか、それなら次の信号の交差点を横切って、清掃局の方に走って行きました。自転車に乗った人も追いかけて行きましたよ」と教えて下さった。
はー、とりあえずダックスは横道にそれてくれたのなら、ちょっとは良かった。
大通りをこのまま走られると、きっと事故に遭うだろう。 たぶんもうひとりの店員さんだろうが、自転車の人も追跡しているとのこと、この時点でこの情報が入って来て良かった。
ここで、女性店員さんとおまわりさんに任せて、私はひとり駅に向かった。 歩きながら、さっき声掛けをした犬の散歩のご夫婦と行き合ったので、事情を説明した。
ご主人、犬が反対車線に入ってしまったら、車と向き合う格好になり、非常にマズイとハラハラしていた、とのこと。
ここでお礼を申し上げ解散した。
甥には「20分ほど遅れるわ、事情は会ってからね」とメール。
展覧会を見終わっての帰路、恐る恐る交番に立ち寄ってみた。
「午前中の犬、どうなりました?」と尋ねるとおまわりさん、「清掃局の近くのツツジの茂みに隠れているところを抱っこして保護しましたよ」とのこと。
はー、良かったよ。
これで一件落着ですね。