コラム「猫の手も借りたい」№58 ウエスタン 上

携帯が鳴った。理事長からである。時計を見ると夜 11時を回っており、嫌な予感がした。電話に出るとこんな感じ。
「あなたの(私の)家の近くをたまたま車で通ったら、猫が車道にうずくまっているように見えた。車線変更が出来ずそのまま通り過ぎてしまったので、見に行って欲しい」だって。
行きたくない!って言おうと思ったがそうも行かない。餌やりが終わった直後だったのでそのまま急行した。

場所は大通りのステーキハウスの前、確かに車道の端、排水のために四角い鉄格子がはめられた溝の上に、真っ黒い猫が箱を作ってスフィンクスみたいに座っている。倒れてはいない。
3~4人の女性が、どうしたものかと猫を見守りながら相談しているのが目に入った。ボランティアの腕章を着用していたので、私を見かけるとみなさんから「ああ、良かった」というような安堵の表情が見えた。

その方たちは、車道の猫を「歩道」に追おうとしたが動かず、それ以上下手に手を出して車道の真ん中に行っちゃって車に轢かれたら大変と、ハラハラしながら見守っていたら私が現れた、というわけ。

そもそもなんでこんな場所でうずくまっているのか。
交通事故にでも遭ったとしたら、ケガや骨折の可能性もあるな、などと頭に浮かんだ。

さて、どうしよう。助けようと歩道側から近づいて万が一通りに出てしまったら本当にアウトである。もちろん馴れていないから触れない。しかし、車道側からなんて車が通っているから、こっちが危なくて近寄れやしない。急遽、捕獲器を使うことにし、みなさんに猫を頼んで自宅に取りに戻ることとした。
途中、理事長から電話、これからこちらに向うと言う。この辺でそろそろ30分、ヤレヤレであるが仕方ない。

捕獲器と「おとりエサ」のボイルしたチキンを用意し現場に戻った。チキンを入れた捕獲器を仕掛けたが、猫は無反応。仕方がないので直接チキンを鼻先に置いてみたが、これでも無反応。なんだろう、鼻が利かないのはどうしたわけだ。これまた困った、捕獲器が役に立たない。
近くに棒があったので、それを使って身体を押して歩道に誘導する。お、立って歩き出した。特に歩けない様子はない。しかし、なかなか歩道には戻らない。どうやら目が見えてないようだ。なんとか歩道には戻ったものの、ステーキハウスの明るい照明が怖いらしく(光は感じるらしい)歩道と車道の間の「シゲミ」に戻ってしまう。
しばらく様子を見ていたが、また車道に戻りそうにしたので、あわてて棒で誘導し口を開けた捕獲器へ。捕獲器はカバーで覆い中が暗くしてあったのが功を奏したのか中に入ってくれ、運よく保護することが出来た。

理事長も到着したので獣医師に連絡(夜中です、スイマセン)、事情を話すと快く受け入れてくれ、診察を受けられることになった。

ここまで、およそ1時間、最初から見守って下さっている3名の方もずっとお付き合い下さりありがたかった。お互いにお礼を述べ解散とし、私たちはそのまま病院へ。早速診察をしていただく。

心配した交通事故などの外傷はなく、猫風邪が酷くなり目ヤニでマブタがくっつき前が見えない状態。また、鼻も詰まり食物の匂いを嗅ぐことが出来ないようである。チキンに見向きもしなかったのはその性だったんだな。

診察の結果、このまま入院して治療することになった。

 

続きます。

 

2013年4月 くどいけいこ