コラム「猫の手も借りたい」№46 アルとヴェガ 下

さて、次はヴェガの番。

ヴェガはというと、警戒心が非常に強い子だった。オスよりメスの方が警戒心が強い場合が多い。メスはみんなお母さんになり、子猫を護らないといけないから当然かも知れない。

ヴェガはとても美人で身体も小さくてキュート、愛らしい。毛並みもアルに負けず劣らずのブルーグレー。置物なら「なでて」いられるが、彼女は自分の意思を持ったいきもの、ケージを出たものの人の手が届かないギリギリの場所にいて、なかなか触ることが出来ない。無理に触ることは出来るが、それもイヤイヤである。だが、彼女は引掻いたり咬んだりは絶対にしない。これは兄のアルも同じだった。

ケージを出てしまうと、今度はケージに戻らない。それでもKさんのご家族の前では逃走しないまでになったが、相変わらず自ら触らせてはくれない。たまに私が様子を見に行くと早速逃走、隠れてしまって出て来ない。

どうしたもんかなー、とKさんと二人頭を抱えた。避妊手術をすると性格が変わり穏和になることがあるので、手術もした。

彼女は日に日に大きくなって行く、でもいつ里子に出せるんだろうか・・・

ネット検索すると「ロシアンブルー」の性格は「飼い主と認めた相手には献身的な愛情を持つが、人見知りが激しくシャイで神経質な面があるため、見知らぬ人間には警戒心を示し、慣れるのに時間がかかる場合がある」と書いてある。「シャイで神経質」「慣れるのに時間がかかる場合がある」ってヴェガのことじゃん。

手術をした段階で「大きめで保護したため、保護主さんには慣れていますが、慣らすのにある程度時間かかると思われます。お留守番の少ないご家庭を希望します(歯切れが悪い書き方だー)」という切り口で、里親さん募集も開始、MIXとは言えさすがはロシアン、すぐに何件かお問い合わせをいただき、その結果とても良いご家族にトライアルが決った。

それからもKさんは、なんとか慣らそうと、彼女の好きな美味しいフードで気を引き、ネコジャラシなどのおもちゃで遊ばせ、好きなブラッシングを日に何回も、とそれこそ一生懸命やってくださった。おもちゃで一番好きなのは、なんと「はたき(清掃道具の)」で遊ぶこと。トライアルも「はたき」持参で行くことになった。

さて、新しいご家族はヴェガを待ち望んでくださっていた。ご夫妻でお迎えくださったが、ご友人もお招きで、対面になるとみなさん一様に「可愛い!きれい!」とヴェガを褒めてくださった。ヴェガは幸せものです。

最初はケージから、これはお兄ちゃんのアルくんと同じ。

ケージに慣れたら、必ず「出してー」と言ってくるので、それから部屋に出してください、とお願いし、美味しいお茶とお菓子をごちそうになりお宅を後にした。

その後が大変だった。

「ヴェガちゃんケージじゃ可哀想」と比較的早めにケージから出されたらしいが、それからが触れない。ヴェガも頑固に抵抗したみたいで、しばらくすると「ヴェガを甘く見ていました」とメールをいただいた。そう、ヴェガもそのまま「ヴェガ」と呼んでくださっていました。

ご夫妻はヴェガのために美味しいものや、遊び道具のキャットタワーなどたくさんそろえてくださり、キャットタワーのてっぺんからご家族を見下ろすヴェガの写メールが来て、いや~、冷や汗。まだ暑さの残る時節に行ったのに、年の暮れに「新年になったら抱っこ出来るヴェガを期待して頑張ります」というお便りが届き、更に冷や汗って、寒い盛りだったけど。

それからは正直怖くて連絡できない日々。「まだ全然慣れません」って返信が来たらばどうしよう~と、携帯に手が伸びない。そんなことだったが、桜が咲く頃になってやっと、やっと吉報が届いた。

ヴェガと一緒にいる時間が一番長い「ご主人」ととても仲良くなった、というのである。ご主人を見つめて「うっとり」するんですって、ヴェガが。待ちに待った、ご主人の腕の中にいる彼女の写メールが送られて来たが、カメラで近づく人間(奥様ですね)には抵抗の態度は見せているものの、穏和になった彼女の姿。はー、良かった。

ヴェガを見捨てずに心から愛しみ、気長に気長に「あなたはうちの子だよ、ヴェガ」と可愛がってくださった賜物なのだろうと思う。

今でもごはんの時だけはスリスリ(みんなに)、ご主人の声がするとどこからか飛んで来てデレデレ(ご主人に)。でも「そんなヴェガが楽しみ」とおっしゃってくださる。

ヴェガ、良かったね。

里子に出た子たちは、里親になって家族に迎えてくださったみなさまの、温かいご家庭があったればこそ今があります。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 

 

2012年/8月某日 くどいけいこ