コラム「猫の手も借りたい」№42 小さな幸せ 上

先頃、友人Mさんから緊急の連絡があり、若いオスが脱走して戻って来ない、という内容、「なんとか見つけたいのでアドバイスを」と必死の様子がひしひしと伝わって来た。

「若いオス Tくん」は、1歳とちょっと。生後23ヵ月頃保護されMさん宅へ。去勢手術も済み、完全室内飼育のもと、少々「シャイ」な性格のチャトラの男の子、元気に成長していた。

Mさん宅はテラスタイプのお住いで、ご主人が2階ベランダに出た時に、一緒にTくんも出ちゃったみたい。それに気が付かなかったご主人がご自分だけ室内に戻ってしまわれた、とのこと。足音を立てない「猫」という動物では、その存在に気付かず、閉じ込めちゃった、閉め出しちゃった、というケースを時々耳にする。

しばらく経って「Tくんがいない」と探してみたが屋内では見つからず、ひょっとして・・・とベランダに出てみたらば、Tくんは「お隣のベランダ」に。サッシが閉まって室内に戻れなかったため、ベランダの境界線を越えお隣に行ってしまっていたわけだ。

ここからの話がなんとも悔しい、というか悪運が重なっている。

お隣のベランダのTくん、優しく名前を呼んでも来ない。仕方がないからMさんはお隣からTくんを救出させて貰おうと、玄関の呼び鈴を押し事情を話したところ、なんとお隣さん、何を勘違いしたか、ご自分がTくんを救出しようとされ、あれよあれよという間にTくんのもとへ。びっくりした「シャイ」なTくん、ベランダから階下へ降り屋外へ逃げてしまった。しかし、ベランダが「2階」で良かった。もっと上の階だったらと考えたら、ぞっとする。

これはTくんでなくても、いきなり知らない人に触られたら逃げてしまう子が大半を占めていると思う。お隣さんは猫に不慣れな人だったんだろうな、飼い猫なら簡単に抱っこ出来る、と思ってしまわれたことは想像できる。不運だったとしか言いようがない。

このベランダ、いったん階下へ降りたら残念ながら二度と登って来れない構造になっており、出て行った場所から戻ってくることが出来ない、という状況に陥ってしまったのである。

その後、Tくんが近所の壁と壁に挟まれた狭い通路にいたところを見つけ、Mさんが抱っこしていったん確保した。ほっとしたのもつかの間、屋外にいてパニックを起こしていたTくん、家に戻る前にMさんの腕の中で暴れ、また逃げてしまったとのこと。うーん、難しい。キャリーバックなどに入れて確保出来たら良かったとは思うが、抱っこしてキャリーに移す時に怖がって暴れる子もいるので、注意が必要である。たぶんTくんは、キャリーに移そうとしても暴れて上手く行かなかったかも知れないと思う。

それから保護出来るまで10日間、保護直前の2日程は自宅付近に姿を現したTくんだが、それまではパッタリと消息が途絶えてしまい、「いったいどこへ??!」と気を揉んだMさん、さぞや辛かったと思う。食事も喉を通らなかった、とその時を振り返られる。

私は平素から飼い猫には「首輪」をし、首輪には電話番号を書いておくといざという時のために便利とお伝えしていて、このコラム(№32「猫の事故 ~転落/脱走~」)でも書いている。

猫を捜索するにあたっての情報提供の呼び掛けに作成する「ポスター」「ちらし」は、当猫の身体的な情報に加え、首輪の色など個体を特定し易い情報を掲載したい。ただの「チャトラ」だけでなく、「赤い首輪」などのデータがあると、情報提供する方も個体の特定がし易く決め手となる。だが、残念ながらTくん、首輪はつけていなかった。 

脱走後、私は2~3日目くらいに連絡をいただき「アドバイスを」と依頼されたが、さて、うちの猫たち、実は間違って脱走してもすーぐ帰って来る子ばかりで、気を揉んだ経験がない。大抵は20~30分で、長くて数時間で帰って来ており、外泊なんてもってのほか、って意味が違って来たぞ。

だから正直なところ、的確なアドバイスはして差し上げられなかった(と思う)。

Tくん探しは、近所にTくんと同腹のノラちゃん兄弟姉妹がいる、大きなお屋敷と庭のあるお宅がある、逃げたベランダからではなく「玄関」からしか帰ってくることが出来ない、という、まあ、脱走解決にはありがたくない条件が重なってか、難航した。 

続きます。

 

2012年/6月某日 くどいけいこ