コラム「猫の手も借りたい」№38 かよちゃん 中

オスのかよこをYさん宅に入れるにあたり、慎重に打合せをした。

まず、9ヵ月近く屋外で過ごしているので、他のノラ猫にも接触している。感染症などの再度の健康診断が必要だ。病院に連れて行こうとNさんと話したところ、Nさん宅も含め、数軒のお宅で給餌したり面倒をみたりして下さっているらしいことが判った。というのは、かよこがNさん宅にあまり居ないので、近所に聞き込みをしたらば、他のお宅で見かけた、という目撃情報があったというのだ。

とにかくNさん宅に戻るように仕向けるため、フードを与えないでいただく作戦を考え、「次の日曜日に病院で検査するのでフードを与えないで」との旨を書いた丸いプレートを作成し、かよちゃんに首から提げて貰った。

とたんに、近所のお一人暮らしの老婦人が、鼻息荒くNさん宅に事情を聴きに来られた。「この猫に何するつもり?日曜日なんて病院はやってないのに!」とのことだったそうだ。かよこはノラ生活の中でも「可愛がって大切にして下さるお宅」を見つけていたんですね。

Nさんは、かよちゃんに新しい飼い主さんが見つかり、その準備で病院を受診する必要があり、むろん「次の日曜日」に動物病院は診察をしている旨、説明して下さった。それを聴いて、その老婦人から、もう1軒かよちゃんが懇意にしているお宅があることも判った。

3軒のお宅に出入りしていたかよちゃん。3軒とも残念ながらかよこを「飼い猫」として迎え入れられない環境にあることも新たに判った。

彼の健康診断は前回より入念にし、エイズ・白血病の血液検査も行い、幸い問題はなかったし、再度のワクチンも済ませ、更には「シャンプー」もして貰った。今度行くYさん宅は、去勢済みだが他のオス猫が数匹いるので、やはり「なわばり争い」を避けるため、智恵を絞ってオス猫の匂いを消すことを考えた。

さて、シャンプーが終わったかよこを連れタクシーでYさん宅に直行し、玄関戸に手を掛けた時、先住ちゃんたちが「どど~っ!」と2階から駆け降りて来る音が聴こえた。「なにー、だれー?」っと新入りが平気な子たちは興味深々だが、そうじゃない子はかよこを見て慌てて2階に引き返した。

その日はYさんが準備して下さった「3段ケージ」に彼は収まった。私は早めに失礼したので、その後のことは電話でYさんに確認した。

かよこは、ケージの中でくつろぎ、ご飯も食べたし毛繕いもしている。心配した他の猫たちも、気にはしているが特に固執した様子はなく過ごしており、これは「シャンプー」のお陰ではないか、とのことだった。

猫たちが折り合う条件に、「匂い」は非常に大切で、例えば母猫が自分の子猫を認識するのは「匂い」が大きなポイントであると言われる。

うちの法人で、8匹ほど室内飼育をしていたスタッフは、猫たちのマーキングに悩まされていた。家の広さにもよるが、5~6匹に猫が増えた辺りで、去勢・避妊が済んでいてもストレスからかマーキングが始まるようだ。スタッフ宅も例外ではなかった。家中マーキングで、オシッコがかかる場所は常に「ペットシート」でカバー、汚れたら取替えていた。

ある時、スタッフ宅は引っ越しをすることが決り、馴染まぬ新居に更なる悪化を予想していたが、なんと結果は真反対、まったくマーキングがなくなったという。

猫たちは、争うこともなく、それぞれがそれぞれのお気に入りの場所を見つけ収まった。要は以前の関係が「リセット」されたということらしい。

さて、かよこのその後は、次に続きます。

2012年/3月某日 くどいけいこ