コラム「猫の手も借りたい」№6 子猫ノエル
自宅から自転車で2~3分の友人宅に向かう時のこと、いつも通る道の脇の駐車場で、カラスの声が聴こえた。けっこううるさく鳴いている。「あれ~??」と不思議に思い、自転車を止め覗いてみると・・・、まず「赤」が目に飛び込んで来た。いきなり「ドキン」とした。フェンスにとまった数羽のカラス、その視線の先にあったものは、黒い子猫。くちばしで突かれて「真っ赤」だった。その絶命している子猫の傍らには、同じ黒猫が2匹でカラスからその子猫を守っていた。1匹は母猫、1匹は子猫、おそらくその子の兄弟姉妹であろう、同じ大きさの子猫だ。どのくらいの時間だろうか、2匹は両側から死んだ子猫にピッタリと寄り添い必死で子猫を守っていたようだ。
近付くと、母猫は「シャー!」と私を威嚇しながらその場を離れ、すぐ脇の車の下に入り込んだが、もう1匹の生きている子猫の方は、両方の眼が目ヤニで塞がり、ガリガリに痩せて相当衰弱しているように見受けられ、抱き上げても抵抗もしなかった。
私は持っていた新聞を広げ、亡くなっている子猫にかけた。この子も早く何とかしてやらないと更にカラスにやられるが、まずは生きている子猫を優先したかったからだ。その足で、動物病院へ。子猫の診察をお願いした。
診察台の上の子猫は栄養状態が悪く、ひいている風邪の状況も悪かった。痩せているが、生後2ヶ月強の女の子、入院し治療することになったが、ドクターは「(助けるのは)難しいかも知れない」とくもった顔。「よろしくお願いします」と診察室を出ようとしたら、子猫は突然、診察台の上でパ~っと真っ黒な多量の水様の便をした。それを見たドクターの顔はますますくもった。
動物病院を出た足で、駐車場にとってかえした。幸いにもカラスは新聞紙の上からの攻撃はしなかったようで、また母猫が新聞紙の上から子猫にピッタリと寄り添い、1匹でフェンスの上の数羽のカラスを睨みつけていた。その健気な姿に思わず涙がこぼれた。「ごめんね、あなたの子猫は2匹とも私が預かったよ。1匹はなんとか命を助けたい。この子は天の神様にお返しするからね」と新聞紙で子猫をくるみ、その場を離れた。家に帰り清掃局に連絡し埋葬供養を依頼、ありあわせの段ボールに布を敷き子猫を納め、手を合わせた。
翌日、入院している黒子猫の様子を訊くのに、病院へ電話した。なんと、回復して来ているという。運の強い子だ。ご飯も食べ徐々にだが元気を取り戻しつつあるとのこと。数日後、面会に行くと目ヤニもきれいにとれた子猫がケージの中にいた。ドクターから、カルテを作るのに仮の名前で良いからつけて欲しい、とオーダーがあったので、それでは、と考えた。そうだ、もうすぐクリスマスだから「ノエル」はどうでしょうか?と言うと、ドクターはにっこり笑って「良い名前ですね」と言いながらカルテに「NOEL」と横文字で書かれた。かっこい~な~!
それから1週間ほどして、黒子猫ノエルは、ドクターや病院の皆様の手厚い治療のおかげで、危ぶまれた命を助けていただき、無事に退院して来た。なんと嬉しかったことか。本当にこの子は強運の持ち主である。まだ小さいノエルはうちに置き、ノラちゃん教育を母猫からたっぷりされているのでこれをなんとか馴らし、里親さん探しをすることにした。黒猫はけっこう気が強い子が多いが、ノエルも例外ではなく、いやはや、なかなか手を焼いたが、幸いなんとか馴れ、良い里親さんが決まった。
子猫たちが居なくなった母猫は、次の妊娠をしないうちにと、避妊手術の予約を入れた。子猫を途中で亡くした母猫は、すぐに次の子猫をお腹に宿すことがあるから、油断禁物である。こちらも翌週には保護、手術を終了した。
新しい里親さんに貰われた子猫は、ほとんどが行った先で新しい名前を貰う。だがノエルは「良い名前だから」と正式に「ノエル【NOEL】」の名前をいただいた。嬉しい限りである。やれやれ、一件落着。
2010年/2月某日 くどいけいこ
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