コラム「猫の手も借りたい」№49 疥癬(かいせん) 下

動物病院の診立てはやはり「疥癬」で、相当進行していたので、そのまましばらく入院することになった。またお財布からお札が飛んでいく様を想像し自分でも可笑しかったが、命を助けてやれるんだもの、工夫して節約、補てんしたら良いと思い直した。

疥癬は、このまま放置しておくと掻くことにより段々皮膚が厚くなり、痒み、フケやカサブタに悩まされ、傷口から雑菌が入って化膿したりする。更に二次的な感染症を引き起こすと、酷い場合は敗血症で死に至ることもある。間に合って良かった。

さて、入院先にハチワレくんのお見舞いに行って仰天した。頭の部分と尻尾を残してなんとなんとバリカンで胴体の「ロングヘアー」を短く刈られてしまっているではないか。売りの「ロングヘアー」だったのに~。思わずドクターを恨んだ。
そうは言っても、この子を救うのにはこの手段が最善の方法だったのだ。

ハチワレくんは「疥癬」だけではなく、ノミ・ダニの宝庫?!でもあり、特に無数の「ダニ」の子供がたかっていた。最初、連れ帰った彼を近くで見たらば、小さな黄色い粉状のものが全身に付着しており、なんだろうと目を凝らすと、その黄色い無数の粉はもぞもぞと動き、生まれたばかりのダニの子供だと判った。とたんに鳥肌が立った。なんと過酷な状況下で生きていたことか。

10日ほど経つとハチワレくんは傷も治り、すっかり綺麗になった。なかなかの美男子である、短毛だけど。そろそろ退院、という運びになったが、疥癬は感染力が強いためしばらく他の猫とは一緒にしないで「隔離」して欲しいと担当医から指示があった。

退院後、部屋を別けた上に「ケージ」に入れて疥癬の治療を続けた。すでに引っ掻き傷やカサブタは治まっているかに見えたので安心していたが、ある日仕事から帰宅してみたらば、また耳の裏側に傷が出来ており、後足で「バリバリ」掻いている。もしやと翌日受診したら疥癬がぶり返していたので、更にしばらく治療をしなくてはならず「隔離」期間が延長された。とほほ。

その3週間後、やっとのことで完治し里親さんを探せるまでになったが、彼は「大きく」なっちゃって、もはやすでに子猫と呼ぶにははばかられるほど。里親会場に連れて行っても他の子猫に比べるとずっと大きい。胴体部分の毛はつんつるてんだし・・・。やはりオファーがなく、困った・・・。ドクターをまた恨んだ。

それでも何回か里親会に行っているうちに、定年退職してすぐのご夫婦と成人した3人のお嬢さんがいらっしゃるご家族のお目に留まり、ハチワレくんは飼い猫になった。ご主人が彼を気に入って下さり、「ぜひ、この子を」と言って下さったのである。

お届けの日、ハチワレくんはすぐにそのお宅に馴染んでくれ、私たちの苦労と努力は報われた。ご主人の気持ちが伝わるのか、彼もご主人が大好き、畳に座ってテレビで野球観戦をしているご主人の背中に「ドン!」と身体を預け寄りかかって眠っている彼。ご主人も可愛くて嬉しくて仕方がない様子。奥様も苦笑されるほどである。

それから半年後、近くまで行ったのでご自宅に寄ってみたらば、更に大きく立派に成長した彼は、見事なロングヘアー、私も見紛うほどであった。

 

2012年10月 くどいけいこ