コラム「猫の手も借りたい」№317 ムギちゃんのSOS
さて、どこから聞いていただこうか。
ムギちゃん 三毛 推定16才
ここ3年ほど、夏の過酷さは増すばかり。
どんどん年を重ねているムギちゃんには、本当に本当に夏が苦痛だったに違いない。
毎夏、半分を過ぎた頃から暑気あたり(夏バテですね)だと思われるが、必ず食欲が落ち、7日~10日程度、その食欲を戻すのに、私は一生懸命だった。
幸いにも、そのくらいの日数をかけると彼女は回復した。暑さの影響だけではなく他の疾患も鑑み、抗生物質などの投薬も行い様子を見た。
毎夜何度もエサ場に足を運び、少ししか食べない彼女に、手を変え品を変え、食べられそうなものを器に入れて差し出した。
少しずつでも食べれば、一日の摂取量が増えるからだ。
食べないとどんどん弱り、命取りになりかねない。
頻繁に屋内と屋外を行ったり来たりするので、私はしまいには暑いんだか寒いんだかわからない状態になった。自律神経をやられてしまうのだ。
3ヶ月は続く酷暑の夏、何度天気予報を恨んだことか。
とにかく暑さの切れ目がない。数日でも、いやひと晩でもいい、暑さから逃れられる「いっとき」が欲しかった。
ムギちゃんのことを考えると、心がザワつくのである。
天気予報で 今週末は少し気温が下がる見込み などと聞こうものなら、週末を待ちわびた。
予報が外れると、本当に天気予報を恨み(恨んでも仕方ないんだけど)天を仰いだ。
結局、私までメンタルをやられることが多くなり、ひたすら気温の下がる秋を待つしかなかった。
23年、24年と同じような状況、今年の夏も覚悟はしていたつもりだった。
今年はちょっと状況が異なった。
「エサやり」さんの出現である。
ここ数年、時々エサをあげてくださる方があり、その度にメモ様のお手紙をエサ場に置いてエサやりはこちらに任せて、とお願いした。しかし今年はそれが止まず、酷くなる一方だった。
3月~4月は「アライグマ」が置きエサを狙って出没し、大きな貼り紙でエサを止めることになった。貼った時は効果はあるものの、外すとすぐにまた置かれた。そのうち貼り紙も効果がなくなった。
気温が高くなるにつれ、アリやナメクジがたかり、不衛生極まりない上に、置かれる場所は彼女が出入りするよそのお宅の庭。彼女はそのお宅のアジサイのアーチをくぐっていつも現れた。
大量のウエットフードが紙皿に、ドライフードもざら~っと道路に撒かれる。
これが6月まで続いた。
私は日に何度もエサ場に通い、回収/廃棄した。
ナメクジは、ネコが食べてしまうと命に関わる。私はよそのお宅の庭に、ご迷惑を承知の上で、ナメクジのたかったフードの写真を載せた小さなポスターを作成して貼った。そのお宅は見て見ぬふりをしてくださったけれども、エサやりは止まず。
ムギちゃんは解りやすい。
食べていないと私を見つけて走ってくるが、胃袋が満たされていると私に近寄って来ないばかりか、エサ場に出て来ないことも。
高齢になっているので、口腔に問題が出て来ており、頬を引っ掻くしぐさが。その引っ掻く前足が器に当り、カラン、カランと音が鳴る。
いつもなら抗生剤を混ぜたフードを続けて与えるが、他のエサを食べているので食べてくれない。
こんな状態で、今年は「猛暑の夏」に突入した。
6月の後半で彼女は食が落ちた。
あっという間に食べなくなり、そんな中でも ナメクジだらけ のエサは置かれた。
この酷暑、暑さの切れ目もなく、暑い暑い屋外にいる年寄りネコは、どんどん弱っていく。
いつかは、いつかはお別れすることは解っている、つもりだった。
ネコの最期は「涼しい/暖かい 場所で」と思ってもみる。でも、それって人目線ではなかろうか。屋外に暮らし人に慣れていないネコは、果たしてそれを望んでいるのだろうか。
私が常に抱いている疑問だった。
ムギちゃんは常に、人と距離を取っているネコで、私も基本的に2メートルの距離を縮めることが出来ないでいた。
その状態で15年ほどエサやりを続けていた。ネコによってはそんな中でも距離を縮めてくる子がいるが、残念ながらムギちゃんはそのタイプではなかった。
3~4年前、一度彼女を保護しようと試みたことがあり捕獲器を仕掛けたが、捕獲器にまったく入らず。
これまでに2回は捕獲器にかかっているので、それを覚えている、ということらしい。
そんなことで、残念だが保護を諦めざるを得なかった。
食べなくなった彼女。
エサ場に行くと所在なさげで、私を見るとゆっくりだが走って来た。
食べられそうなものを器に入れて差し出すが、顔は近づけるものの食べなかったり、食べてもほんのちょっと、そのままアジサイのアーチの中に消えて行った。
誰かに何かもらっているかも、と私は諦めずに空腹になる時間を見計らって、何度もエサ場に出向いた。名前を呼ぶと出て来ることもあったが、まったく姿を見せないことも。
振り返ってみると、最後に走って私を迎えに来たのは7月1日だった。
エサやりはそれでも止まず、紙皿の大量のウエットは時々だが変わらず置かれ、よそのお宅の庭なのに投げ込まれているソーセージや揚げパン、いずれもまったく食べていない。黒いものがあるので、紙でとってみたらば「ハム」でアリがたかって真っ黒になっていた。
そんな光景を目にする度に、私は胸が詰まって詰まって。
よかれと思ってフードを届けてくださるわけなんだが、これこそ、申し訳ないが「ひいきの引き倒し」である。
せめて、せめて置いたエサを食べ終わった頃に見に来ていただいていれば、悲惨な現状を把握してもらえたかも、とため息。
エサを廃棄する私も、ナメクジだらけの紙皿を顔を背けながら手袋をしてつかんで袋に入れる。どれだけイヤな思いをしたことか。正直、腹が立ったことも一度や二度ではなかった。
食べない彼女を見るのが辛い。
このままでは確実に、アジサイのアーチから出て来なくなり、それは彼女の命の終わりを意味する。
私が、いてもたってもいられない。
35度の屋外で過ごすムギちゃん。
夜だって熱帯夜、1秒たりとも「涼」の取れない彼女を思うと、小物の私のメンタルはあっという間にやられてしまった。
エサ場に出て来ないムギちゃんの名前を呼びながら、何度も足を運ぶ。私の体調も悪くなっていった。
そんな時、ちょっと梅雨の戻りがあり雨が降ってくれて気温がいくぶん下がった。
ムギちゃんはというと、エサ場に来て少しずつではあるが食べてくれるように。
耐え切れなくなって「SOS」を発したのは、実は私のほうだった。
今保護しても間に合わないかもしれない。
保護後は動物病院で健康チェック、出来うる限りの駆虫、感染症のウイルスチェックを行うことになる。
私が世話が出来ない時に、代わって彼女の世話をしてくれる人たちはみんな、ネコに関わる方たちばかり。その状態でムギちゃんに接触し、感染症や害虫の被害を他のネコに広げないためである。
基本的には私は、ムギちゃんの治療は行わないと決めていた。
彼女が一番苦手とすることは行わない、それがせめてもの私が彼女のために出来ることだ。
そう決めて私はご近所のネコ仲間に相談、保護先の部屋の確保、収容ケージの準備などなど、段取りを進めていった。
私宅は「エイズ」のペルがいる上、室内で仕切れる場所がない。
上下階のフロアが繋がっており、一部屋取ることが出来ない構造なので、別に部屋を用意するしか保護の方法がないのである。
そうは申せ、まず彼女を捕獲できるのか、、、
保護のためには、カゴ慣れ、という「捕獲器」をネコの近くに置いて慣れさせることから始めなければならない。
以前はこれさえ出来ず保護出来なかったので、私は他の方法、追い込みや別のタイプの捕獲器を使う、なども視野に入れた。
カゴ(捕獲器)慣れ を始めてみたらば、なんとムギちゃんは捕獲器に順応し、捕獲器の中に入れたフードを食べるように。かなり弱っても来ていたので、これはイケるかも!と数日をかけてカゴ慣れを進めていった。
最初に彼女を見かけたのは15~16年くらい前だと記憶している。
寒さ厳しい2月だった。
三毛だったので、どうしよう、と思ったが、繁殖シーズンで妊娠しちゃったらOUTだからと、すぐに捕獲器をかけ、不妊手術を。
耳カットもなかったので致し方なかったが、なんと術済み。
その後、近所の保護施設から逃亡した子であることが判明。
人慣れもまったくしておらず、やむなくそのままエサやりを続けることに相成った。
当時はまだ10匹くらいの子たちがエサを待っており、ムギちゃんもその一員。
2020年にトラミちゃんを保護してしまってからは、ムギちゃんにだけ通う日々が続いた。
大食漢の彼女、食べる食べる(笑)。夜1回のフードを心待ちにしているムギちゃん。
待ちきれず曲がり角まで迎えに来て、私がそこまで来ると鳴きながら私の前をジグザグに歩いて、エサ場に誘う。
今思えば、本当に幸せな日々だった。
好きなものから順に頬張る彼女。
うんうん、それが美味しいか、それが好きだったね、と声を掛けながら15~20分、傍で見守った。
夏場は蚊の襲来を受けながら、器が空になるまで待つ。
満足そうにネグラのアジサイのアーチの中に消えていく彼女を見送った。
ムギちゃんがフードを美味しそうに食べる様子を見て、今日も1日終わったね、と安堵する自分がいた。
話を元に戻そう。
1週間ほどの梅雨の戻りの後、暑さがぶり返す前に保護を、と仲間に協力をお願いし、なんとか準備は整った。
尽力してくれた仲間に心から感謝、ありがとう。
いよいよ保護(捕獲)の夜、いつも通り私はエサ場へ。
お願いだから捕獲器に入ってね、と祈りながら捕獲器にエサ皿を。
その日はちょうど「缶/ビン/ペットボトル」資源ゴミ回収の前日。道路端に用意された、青と黄色のコンテナ、ペットボトル回収袋に、ご近所さんがショートパンツにサンダル履きで捨てに出て来る可能性もあり、冷や冷やしながら見守った。
捕獲器のドアが閉まるまで、けっこうな時間を要した。
途中まで入った彼女は、なぜか一度出てきてしまったから。
そのまま見守ったところ運良く捕獲、捕獲器のまま、ひと晩エアコンの効いた部屋で過ごさせることが出来た。
翌日午前中、動物病院を受診。
ドクターたちは「シャーシャー」いう子をネットに移し、鎮静もかけないで健康チェックをしてくださる。
本当に頭が下がる。
血液検査とウイルスチェック、出来うる限りの駆虫をお願いした。
ウイルスチェックはキットではあるものの異常なしで、ひとまず胸を撫でおろした。
血液検査。腎数値が高め、それより「脱水」が酷いので点滴をお願いした。一度で良くなるレベルではないものの、しないよりずっとずっと良い。
屋外にいたせいもあろうが、高齢のため「慢性腎不全」も進行しているようだ。
体重はたったの2,2キロしかなく、本当に間一髪の救出であった。
捕獲器から出してもらった彼女をキャリーケースに移していただき、彼女のために準備した3段ケージへ。
とりあえずキャリーごとケージへ入れてお水を置き、古いシーツで全体を目隠しし様子を見ることにして、一旦は部屋を出る。
夕方見に行ったら、そのままキャリーから出ていなかったので、水を取り替え帰ってきた。
翌朝、祈るような気持ちで見に行くと、キャリーから出ていて3段ケージの一番上の階にいた。そんな力があるんだ、ムギちゃん。
フードを入れた器を置いておくと、早速ムギちゃんは食べ出した。よかった。
トイレ、ちゃんと使っている。ネコってすごくて、だーれも教えないけど砂さえあれば、トイレの失敗はほぼない。
尿量はかなり多く、やはり「脱水」状態なのがわかる。
ムギちゃんの表情は、というと信頼を裏切った私を警戒の目でじっと見ている。
意外と冷静。でも「許さないわよ」って目だ、今のところ(苦笑)。
しばらくは頻繁に通って観察が必要だし、優しい言葉をかけ続けようと心した。
ここまで一気に書いて来ちゃったけど、小心者の私としたら、この1ヶ月はけっこうハードな日々でありました。
実は5月、6月と健康面で気になることがあり、検査、検査、病院に何度も通うことに。
幸いにも「経過観察」ということになり、あ~よかった、とほっとした矢先のムギちゃん案件、猛暑の中で気の休まる時がなく、私のためにムギちゃんを保護したと言っても過言ではない。
ケージに落ち着いた彼女を見ていると、本当に助かって良かったと思う反面、これはムギちゃんが望んでいることなのか、という心配が頭をもたげる。
いや、そこは何度も自問自答して決めたこと、揺るぐまい。
これからどうやって、彼女と付き合って行こうか、それを前向きに考えることにした。
また、ご報告させてください。
過酷な夏はまだまだこれから。
みなさま、ご自愛くださいませ。