コラム「猫の手も借りたい」№268 帰って来たペル 下
ペルはただただ、動かずに一日を過ごす。
それでも食欲と排泄は問題なく、ドクターと私は首を傾げた。
テーブルの陰になる椅子の上が、このところの彼の居場所。
その場所からは、食事とトイレ以外は動かない日が続いていた。
やはりこれはただ事ではない。
迷わず新薬の痛み止めに踏み切ったのが、3月の頭だった。
精密検査から1ヵ月経っているから、念のため血液検査はすることとしたが、ドクターはその結果がどうあれ治療に踏み切りましょう、と1回目の皮下注射を。
その後出た血液検査の結果は、やはり前回と同じであった。
さて、それから2日後、おや?! と思う変化がペルに現れ始めた。
一番最初に気が付いたのは、寝室で私を遠巻きにしていたペルが、私の枕元で眠っていた。
次の変化、テーブルの上でTVを見るのが好きだったが、ここんところはお見限り。
ところが、テーブルに上がりTVを見ている。
おもちゃ箱からのおもちゃ探しも復活している。
こんなこともしていたっけ、ということも出て来た。
レンジ台に上がって色んなものを物色している。
食べものの物色はしないけど、レシピノートの上にあるペンやスプーンを下に落とし、転がして遊んでいる。
ちょっとの隙間や場所を見つけては、棚の上にも飛び上がって「これ!危ないよぉ」と叱られている。
本人なんだか嬉しそうだ、ここのところまったく出来ていなかったすべてのことを、ペルは取り返さんばかりに活発に駆け回っているように感じる。
動作が活発になったばかりではない。表情が、普段見せる表情がグーンと穏やかになって来た。
もうもう、目を見張るほどの変わりようである。そうそう、ペルってこうだった、って私の涙腺は何度も崩壊した。
そろそろ治療開始から3週間は経つが、もう以前のペルとまったく変わらない。
こうなるとなんだか、若返り、子ネコ返りをしているようにさえ感じる。
やはり痛かったのだ、どれほど痛かったもんだか、私の想像を超える程であったと拝察出来た。
しかし、口がきけないネコと一緒に暮らすのって、本当に本当に大変というか考えが及ばない部分もあるんだと、今回つくづく思い知った。
もし、もしもこのまま「痛み」に気が付かなければ、ペルはずっと痛みという不快感を抱いて生きて行かなければならなかったかも知れない。
飼い主の私は「老化なのかな……」などと思いながら、ずっと様子見をし続けていたのかと思うと、こうしてペルと私を救ってくださったドクターには,本当に感謝である。
ペル、お帰り。
これからもこうやって、ドクターと三人四脚?(笑)で乗り越えて行かれるよ、きっと。