コラム「猫の手も借りたい」№258 ムギちゃんの災難 上
3日前に、ムギちゃんがエサ場にしている空き家の解体が始まった。
私が空き家の解体を聞いたのはその前日。そうは言っても、よしんば聞いたところで何も出来ない、今のところ。
ムギちゃんは、たぶんその空き家をネグラにはしておらず、エサだけをもらいに来ていたと思う。
空き家と言っても、かなり昔に瓦が降ろされた屋根は朽ちて抜け、風雨が凌げるのは空き家の一部分でしかなかった。
食事を終わった彼女は、空き家の裏に消えていくように見える。
家の裏は壊れていて出入りは自由だったが、道路に面した玄関と、恐らく店舗だった部分の隙間はなく、家屋に人が表から入ることは不可能で、それを利用してムギちゃんは、玄関付近に空いている小さな穴からごはんをもらっていた。
風雨を避け待っていることも、ごはんを濡れずに食べることも出来たから好都合だったわけで、それでここ2年ほど、この場所で彼女はエサをねだっていた。
それが、突然出来なくなったわけである。
解体一日目、いつもよりかなり早い時間から様子見に行った。いない。
一時間おきに行き、真夜中まで彼女を待ったが、とうとう会えず。
もともと彼女は、私からだけごはんをもらっている。
というのは毎回、けっこうな量を持参するが彼女は残さない。
他でももらっていると食ムラが出来、エサを残すのですぐにわかるが、
彼女はそんなことがないので、それがわかる。
また、ノラさん(飼い主のいないネコ)は、いい場所を見つけ日向ぼっこをしたり涼んだり、など給餌時間以外でも姿を見るが、彼女は今まで10数年、ただの一度も見たことがない。
行動範囲のかなり狭いネコだと思う。
ネコは、例え脱走しても最初の1週間は近所に潜伏していることが多い。
メスは特に縄張りの中から出ることはあまりないのでは。
だからムギちゃんは、絶対に空き家の近くに現れると信じていたし、空き家からそんなに離れていないところにネグラもあろうと踏んでいた。
ネグラ近くの空き家でいきなり「ドッカンドッカン」と来たので、びっくり仰天、怖かったのであろう。最初はすくんでいるだろうと想像はついた。さてそれが、どれくらい続くだろうか……。
一日目に様子を見に行った時、私がムギちゃんに給餌をしていることをご存じのご近所さんが私を見つけ、走って来て「空き家が壊されるのよ!ネコさん、家に連れて帰ったらどう?可哀想でしょ!」と。
この方は、私がこの近辺で10数年TNRをしながら給餌をしているのをご存じだった。この空き家は私の自宅の1本裏の道路に面した場所なので、最初にお会いした時に状況は説明してあった。
私は「解体されるのは聞きましたが、そんなに簡単に自宅に入れられないんです。人に慣れない可能性もありますし」と説明した。
この方も、良かれと思ってのアドバイスであろうことは重々承知の上だけれど、私にしてみたら、関係ない人はなんでも言えていいなあ……、自分は何もしないわけなんだろうし、だったら何も言わないで欲しい、と正直思った。
続きます。