コラム「猫の手も借りたい」№43 小さな幸せ 中

さて、「小さな幸せ 上」をアップした後、当のMさんから、「私がどんなに辛かったか・・・ もう二度とこんな思いはしたくないし、こんな人は1人でも減らしたい。だから私への気遣いは無用、厳しい目でどんどん書いて!」というお申し出をいただいた。

このTくん脱走は、確かに不運も重なったが、原因は「私ども飼い主の管理の甘さ一点に尽きます」とMさんはおっしゃる。

お隣のベランダにTくんを救出に行った際、はっきり「猫がパニックになるので、猫に触らないようにお願いします」とは言わず、やんわりと「ベランダに行かせてください」というような感じで言ってしまったこと、この一言は重要だった、と反省しきり。結局、意図がきちんと伝わらず、お隣さんがTくんに手を出そうとしてしまい、ベランダから逃げられた。

近所の狭い壁の隙間でTくんを発見した時、キャリーバックでの保護を考えたがキャリーバックが入らない場所だったので「バスタオル」で包んで保護しようと頭に浮かんだそうだが、「気が急いて」しまい、バスタオルを取りに戻らずに直接手で確保してしまったこと。Tくんはこの時(脱走翌日)まで、まだ動かずにいたので、あっさり捕まえられたにもかかわらず油断してしまい、結局暴れて逃げられた、など失敗を挙げられる。

私からのアドバイスはというと、ポスター・ちらしによる情報提供の呼び掛けに加え、時間があったらとにかく「フード」を持って名前を呼びながら近隣を歩く、ドライフードを袋に入れて振る、缶詰なら缶を叩くなど、Tくんが常時聴いていた「食べ物の音」を聴かせて、それから「またたび」も効果があるかも、などとお話しした。

もちろん、関係各所への届け出(近隣の交番、警察署、保健所、動物愛護センターなど)は必ずおこなって、とお願いした。

ポスター・ちらしを作成するのに「首輪」をしていたら、と残念に思ったことは言うまでもない。Mさんも同じであろう。首輪に電話番号をしるしていたらば、病気やケガをしての保護時や「万が一」の時も連絡をいただける場合がある。

Mさんは、自宅周辺に情報提供をお願いしたポスターを作成し、あちこちに貼ったり貼らせて貰ったり。ちらしも作り配れる限り配りまくったとのこと。それでもほとんど情報は寄せられなかった。

探せども探せども見つからない。姿を見失ってからというもの、毎日毎日フードを持って名前を呼んで探す日々。こんなにいないなんて、声の届かないところにいるんじゃないのか、声は届いても出て来れない場所に閉じ込められているんじゃないか、など色々考えちゃうよ、きっと。

私もうちのノラ猫くーちゃんが足を骨折した時、1日数時間程度ではあるが4日ほど近所を探して呼び歩いたことがある(№2223 「うらめしや~ 上下」)が、これも結構心配した。足の骨折でも4日も出て来なかった(来れなかった)のである。しかし、ノラちゃんの場合は、そのままいなくなってしまうケースも何回か経験しており、致し方ないと思うしかない。Tくんは「室内から逃げた」わけで、確かに事故とは言え、逃がしてしまったMさんは、責任を感じたに違いない。

これは想像でしかないがTくんは「どこかにじっと動かないでいた」というのが一番考えられるかなぁ。もちろん保護出来ないから飼い主にとってはとても心配だけれど。

極近に「大きな庭とお屋敷」があるお宅があり、そこにはTくんと同腹の兄弟姉妹も残っており、そこに一緒にいたのではないだろうか。だからTくんは守られたのかも知れない。

塀で囲まれた広い敷地の中にある、雨風が凌げる場所で兄弟姉妹と一緒に過ごしていたかもと思う。見失ってから9日目、Tくんはその兄弟姉妹の中の1匹と一緒にM家の玄関に姿を現したからだ。

このお宅にMさんは捜索に入らせていただいたそうだが、その時は残念ながら発見には至らなかった。

もちろん、すべては結果オーライだから言えること、またすべては想像でしかないのであるが。

続きます。

2012年/6月某日 くどいけいこ