コラム「猫の手も借りたい」№94 じんべえ 下

 

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お話をうかがうと、お二人は里親会場のすぐお近くにお住まいのSさんご家族。
二人住まいで、ロシアンブルーの猫ちゃんと一緒に暮らしていたが、そのロシアンちゃんはお腹の調子を崩し易い子で、食べたとたんにトイレに駆け込む毎日。
受診もし、ドクターと相談してフードも消化の良いタイプに替えて来たが改善されず、残念ながら亡くなってしまい、悲しみにくれる日々を送られていた、とのこと。

しばらく経ってから、近所で里親会が開かれるので、出かけてみようかということになってその日お見えになり、可愛い猫ちゃんたちを見てどうしようか、と考えていた矢先、目の前に出されたのがじんべえの写真。

もうそれはそれは驚いてしまったとのこと。
失ったロシアンちゃんとそっくりな子の写真が目の前に置かれ、偶然とは思えない縁(えにし)を感じたという。

これは亡くなったあの子が、じんべえを家族にしてあげてと言っているんだ、と思ったという。
私たちはそんなSさんご家族の経緯は存じ上げないから、お母様が涙された時には、何があったのか、と驚いたが、そうだったのか、そんないきさつがあったのか。
それからの話はとんとん拍子で進んだ。

だが、ひとつだけ、Sさんご家族は心配なことを口にされていた。

先代ロシアンちゃんは、Sさんのお住まいの近所で遊ぶ子供の声に反応し、非常に苦手だったといい、大きなストレスになっており、また同じようなことがじんべえに起こるなら、可哀想なのでどうしようか、とのことであった。

猫は子供が苦手な子も居る。
年少のお子さんは自分のペースでしか猫に接することが出来ない場合があり、猫の不得意とするところだ。
また大きな声や低い声は嫌いなことが多く、「猫なで声」とはよく言ったもの。
高目の優しい声で接した方が、猫は好むようだ。全般的に女性の方が男性より猫との相性が良いのは、そういったことである。

話がそれました。
じんべえとの相性やその他もろもろは、なんせ一緒に暮らしてみないと解らないから、まずは「トライアル」をとなり、じんべえはSさん宅にやって来ることになった。

弟さんが車を出して下さり、フード、食器、爪とぎ、キャリーケース、毛布などなど、じんべえはお気に入りグッズと一緒にS家にやって来た。

最初のSさんご家族の感想は、なんといってもじんべえが元気いっぱいなこと。
先代ロシアンちゃんは腸の疾患を抱えていたので、体格も小さめだったが、じんべえはどーんとしている。
当のじんべえは、お宅に着きキャリーを出ると隠れてしまった。
お母様は「狭い我が家で」と気にされていたが、そんなことは猫はお構いなし、可愛がって愛しんで下さる飼い主さんに巡り合うのが一番である。

私は久しぶりに弟さんに会った。彼はSさんご家族に会い、安心した様子。

そもそも、一番じんべえを案じていたのは、友人のお嬢さんだった。動物好きで優しい彼女は、じんべえの話を母親(友人ですね)から聴くに及び、いつも心配していたとのこと。じんべえの里親さんが決まった時一番喜んでくれたのは誰あろう、彼女であった。

弟さんは、「ありがとう」とSさんご家族と私に言い残し、帰って行かれた。

その後のじんべえは、というと、名前はもちろん「じんべえ」のまま。

Sさんご家族は、じんべえの名前の由来を聞き、大笑い。
最初こそ「借りてきた猫」だったじんべえもあっという間にS家に馴染み、食欲も旺盛。
こんな風にフードってもりもり食べるんだ、とSさんは思ったという。先代ちゃんは、ちょっと食べてトイレに駆け込んでいたらしいから、見ていられる方も辛かったであろう。

心配していたご近所の子供の声も、じんべえはなんのその、全くクリアであった。

トライアルも終了し、めでたくS家のじんべえとなった。
最近、久しぶりにS家におじゃましたらば、じんべえも出迎えてくれた。
5才になったじんべえは、私を知ってか知らずか、お愛想してくれた。

2015年3月 くどいけいこmachi_beret - コピー